「回文俳句ってナニ?」と言われる方も多いことでしょう。それもそのはず、俳句人気はテレビ番組プレバトの影響もあって若い層にまでひろがって、「才能ナシ」と呼ばれるひとも含め愛好者の数は3百万人とも5百万人とも言われますが、一方、回文俳句(回俳)を詠む人はといえば、日本中でもほんの一握りにすぎません。みんなで俳句もいいですが、少数派の希少価値狙いなら断然回俳です。俳句は脳の老化防止にもいいと言われますが、回俳はさらに脳活には最適です。◆回文は「タケヤブヤケタ」のようにアベコベに読んでも同じになるコトバ遊びの一種ですが。これを俳句と同じ五七五にしたものが回俳です。俳句との違いが手っ取り早くわかるよう、同じ季語に初物の秋刀魚(さんま)を組み入れた二つの句を並べて比較してみましょう。❶「革まるものみなのなか初秋刀魚(あらたまるものみなのなかはつさんま)」❷「万札は痛いが買いたい初秋刀魚(まんさつはいたいがかいたいはつさんま)」すぐお気づきのように❶は正調な俳句で、俳人の石塚友二という方が詠んだ句です。❷が回俳の例で、最近の高値で万札を出すのは痛い、けど買いたいなあという心情を表わしていますがアベコベに詠んでも同じになります。五八五になっていますが、中ほどの「が」を抜いて五七五に整えても十分意味は通じます。◆面白そうだけど難しそうだナと感じるかもしれませんが、ちょっとしたコツをつかめば、むしろ文字数に制約のない回文よりやさしく作れます。では、ごく基本的な作り方の要領をご紹介しましょう。①まず、前掲の「初秋刀魚」と「万札は」のようにアベコベにすると別の意味になる5音のコトバ探しからはじめましょう。コトバのネタは、あなたの周囲の至る所に潜んでいます。例えば毎日配達される新聞、テレビ、マンガ、物語、歌、歴史、落語、俳句の歳時記などなど、いくらでもありますが、いつもは見過ごしていただけです。②この5音のコトバを前と後に据え、両者を繋いで辻褄の合うような7音の回文コトバを工夫すればできあがりです。◆回俳の面白さはなんといっても、アベコベにすることで、作り手自身も予想しなかった、意外性のある展開になることです。俳句にも一句の中に異質の要素を織込んだ「取り合わせ」と呼ばれる手法がありますが、回俳が生み出す意外性は俳句の取り合わせとくらべものになりません。そこが回俳の妙味といえます。◆俳句は他の詩歌同様、感性が大事で、どちらかというと右脳型の人向きです。先にも述べたように、俳句はシニアの脳の老化防止にもよいとされていますが、残念ながら年齢とともに感性の衰えはさけられません。一方回俳は語彙や雑学的知識が豊富になるシニアにとってはむしろ有利で、しかもアベコベにして五七五に納まるよう頭を働かせることで、俳句より脳活、脳トレ向きと言えるでしょう。また、俳句は自己採点ができません。どんなに自分の作が気に入っても、選者により、句の会のメンバーの好みによって選ばれなくてガックリというケースが多いのです。ある句会の選りすぐった会員が、他の句会の吟行に他流試合で参加し、全員酷評されてしょんぼり帰還したという例もあります。一方回俳は、アベコベにしても意味や言葉がピッタリきまり、文法上正しく出来ていれば、誰の目で見ても良い回俳は良いのですから、作った満足感が得られます。◆つぎに、回俳の俳句とはやや異なる「決まり事」を挙げておきましょう。アベコベにしても同じになるというルールには、濁点、半濁点はついてもつかなくても同じに扱うことが許容されます。例えば「長き夜(ながきよ)」はアベコベにしたとき「良きかな(よきかな)」でもヨシとされます。また、俳句では短い五七五の中に季節を表わす季語を一つを超えて入れると「季重なり」といって罰点がつきますが、回俳ではむしろ多く入ったほうが面白味が増します。◆◆◆◆◆以下は回俳の実作例です。小会の同人いとう(I)、こんどう(k)の作から適当に抽出したものです。◆◆◆◆「密なるは避けて野で今朝春菜摘み(I)みつなるはさけてのでけさはるなつみ・コロナ下の早春、下掲写真イメージ」「葉桜の四月なつかし野良草葉(I)はざくらのしがつなつかしのらくさば・行く春を惜しむ」「気が散るは閉口恋へ春近き(k)きがちるはへいこうこいへはるちかき・待春の心情」「大和路に遠き滝音尼寺苫屋(I)やまとじにとおきたきおとにじとまや・滝は夏の季語、やまと尼寺精進日記」「満作や鯛はさばいた焼く秋刀魚(I)まんさくやたいはさばいたやくさんま・秋・豊年満作を祝う」「夕闇の人影が訪ひ飲み屋冬(k)ゆふやみのひとかげがとひのみやふゆ・歳末の風情か」「枯れた花顔晩花名は誰か(k)かれたはなかんばせばんかなはたれか・同窓会の幻滅・冗句調」「最高値銘柄買い目値が大差(k)さいたかねめいがらかいめねがたいさ・株価高騰・時事ネタ」**写真・写団「けやき」土田厚実

