MOBA・幸せ湧く話句「一日生きることは一歩進むこと」

「幸せ湧く話句」では、古くからの格金、金言や、偉人たちが口にした名言などは、二番煎じにならぬよう、あまり扱わないことにしているのですが、「一日生きること‥‥」はシニアがポジティブに生きるうえで心に留めておきたい言葉と思えたのであえて取り上げました。この言葉は、実は最近知ったのですが、偉人も偉人、日本人なら知らない人はないくらい有名な湯川秀樹博士が、自分自身の心覚えに書き留めた言葉だそうです。◆◆湯川博士は言うまでもなく日本人として最初にノーベル賞を受賞した天才的な物理学者です。受賞したのは1949年元号にすると昭和24年、太平洋戦争の敗北から4年、日本中がまだうちひしがれていた中での朗報でした。といっても、受賞の前例もなく、理論物理学とか中間子と言ってもチンプンカンプン、ノーベル賞受賞がどれほど価値があることなのかも、みんな知りませんでした。当時まだ小学生だった筆者には、なおさら理解できませんでしたが、とにかく「とんでもなくスゴいことらしいゾ」ということは世間が大騒ぎしているので感じ取れました。世界新記録を連発してアメリカをギャフンと言わせフジヤマのトビウオと称された水泳の古橋選手と並んで、焼け跡だらけでボロボロの当時の日本人にとって、湯川博士は一躍「希望の星」となったのです。今だってノーベル賞受賞はたいへんな偉業には違いありませんが、毎年、日本人の誰かが取れるかなと期待出来るほどになった今日とはくらべものにならないくらいの大事件だったのです。◆◆そんな天才の湯川博士でさえも、自身が理論上予言した中間子の存在が世界の学界に認められるまでには15年もの長い年月を要しました。その間には戦争そして敗戦もありました。毎日毎日、遅々として進まない研究の中で、自分に言い聞かせた言葉が「一日生きることは一歩進むこと」だったのです。「とにかく小さな一歩でも、一日生きた分だけなにかしら進歩があったはずだ」と思うことで、自分自身を納得させることで、また明日を生きようという気分になれる、というふうに捉えていいでしょうか。◆◆これとやや似た「今日より若い日はない」という言葉があります。明日より今日のほうが若いのだから、一日でも若い今日のうちにやっておこう、というわけです。少し前までは、この言葉を励みに一日一日をムダにしないよう心がけました。今でもいい言葉だと思っています。でも、この歳になると、さすがに若い気分でいようとするのが、追い立てられているようでしんどくなります。それとくらべ湯川博士の「(今日)一日生きることは一歩進むこと」は、ほんの小さな一歩でもいい(例えば、新聞に載っていた新しい言葉の意味を一つ知ることだって一歩前進になる)と思えば、なんとなく気がラクにになりませんか。

(写真:写団けやき土田厚実)