昔の人は今より「夢見」を気にしたようです。ことに年が改まって最初に見る夢は、その年を占うためにも、なんとか縁起のいいものを見たいと、いろいろおまじないを考えました。その中でも、室町時代から次のような風習が広まりました。それは、ある和歌と七福神の絵を描いた紙を、元日(二日でもいいようです)の晩、枕の下に敷いて寝るといい初夢が見られるというのです。その和歌とは、たんなる和歌ではなく、前から読んでも後から読んでも同じ「回文」仕立てになっている、「長き夜の遠の睡りの皆目醒め波乗り船の音の良きかな(ながきよのとおのねぶりのみなめざめなみのりふねのおとのよきかな)」という歌です。なるほど前から読んでも後から読んでも同じ(濁音は無視)で、なんとなくおめでたい感じのする歌ではあります。まあ「遠の睡り」など意味がはっきりしないところもありますが、回文に免じて大目にみることにしましょう。七福神はともかくとして、この回文仕立ての和歌になんで御利益があるのか、いい初夢を見る切り札として選ばれた経緯は定かでありませんが、お陰でこの歌は今日もなお「回文の見本」のように扱われています。◆◆回文の例としてよく挙げられるのが「タケヤブヤケタ」「ダンスガスンダ」「ルスにナニスル」などですが、これだけではあまり面白くありません。かといって、「長き夜の‥‥」のように三十一文字の短歌に仕立てるのはかなり難しい。でも、五七五、十七文字の回文俳句なら、わりと出来そう。(⇒本サイト「脳活に「回文俳句」」もご覧下さい)。「長き夜の‥‥」の歌を枕の下に敷いて寝るのもいいですが、初春にちなんだあなたオリジナルの回文俳句をひねってみるのも一興でしょう。参考になるかどうかわかりませんが例句を二つほど:「高く富士そびゆる由比ぞ飛沫く方(たかくふじそびゆるゆひぞしぶくかた)」「遠の嶺は白銀聴くは羽根の音(とおのねははくぎんきくははねのおと)」

